フッ素樹脂加工品を一枚にしたメインイメージ

素材としての代表的フッ素樹脂

代表的なフッ素樹脂(FR fluorocarbon polymers)

フッ素樹脂■PTFE
=ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)

 PTFEはフッ素樹脂の中で加工用途の一番多いフッ素樹脂で、最も古い歴史を持っています。フッ素樹脂全需要の60〜70%を占める最もポピュラーなタイプです。ポリエチレンの水素原子を全部フッ素原子で置き換えた分子構造を持ち、分子量は400万から1000万と非常に長い鎖状のポリマーです。
 白色ろう状の比重 2.1〜2.2、一般にテフロン(du Pont社)の名で親しまれているポリマーで、融点 327℃、使用可能温度範囲 -80℃〜+260℃、300℃で1ヶ月使用しても引張強度 10〜20%減少するだけで、低温も -100℃でも曲げることが可能です。
 フッ素樹脂がほかのプラスチックに比べて極めて優れた物性を持っているのは、フッ素原子がほかの原子に比べて非常に強い結合力を持っているためで、なかでもPTFEはほかのフッ素樹脂よりもフッ素原子の数が多いので、PTFEがフッ素樹脂の中で最も優れていると言えます。通常の薬品で侵されることはなく、白金や金をも溶かす王水にさえ反応しません。物理的に破壊されなければほぼ永久的に使用可能といえるほどの優れた特性を持つフッ素樹脂です。
[長所]
耐熱性:高温で優れているのみならず、低温特性にも優れ、短時間なら−240℃から+300℃まで、一般的には-180℃ から +260℃ までの広い温度範囲の使用に耐えます。 そして不燃です。
耐薬品性:炭素とフッ素の強固な結合力により、他の物質と化学反応を起こさないため、ほとんどすべての化学薬品に不活性で、溶解や膨張が見られません。高温高圧下のフッ素ガスおよび三フッ化塩素などのフッ素化合物、熔融アルカリ金属にわずかに侵されます。
電気特性: 誘電率、誘電正接が全周波数にわたって低く一定で、きわめてすぐれた絶縁性を示します。絶縁抵抗や絶縁破壊の強さもプラスチック中最高です。
摩擦特性:摩擦係数は現在確認される固体素材の中で最小です。摺動性に優れ、摩擦係数は、荷重にもよりますが0.05〜0.15の間の値を示します。
非粘着性: 非粘着性、離型性にきわめてすぐれ、どのような粘着物質でも付着しにくく、付着しても簡単にはがせます。
耐候性:紫外線の影響を受けず、屋外暴露でも半永久的に侵されません。 
[短所]: 
加工(成形加工)性:溶融粘度が高く、熱流動性がよくないせいで、溶融成形加工は不可能です。加工(成形加工)が難しいため粉末圧縮加温によって行われます。コーティングしたとき、ピンホールの発生が避けられず、耐食(耐蝕)用には向かないフッ素樹脂です。
耐放射線性:放射線によって重合度が低下し、脆弱になる。

用途
キャリアー、溶接キャリアー、継ぎ手、角槽、スペーサーフランジ、検尺棒、スパイラルチューブ、結束チューブ、溶接ロート、ビーカー、溶接スコップ、ヘラ、攪拌ヘラ、メスシリンダー、フェルールタイプ配管部品、フランジタイプ配管部品、ライニングパーツ、チェッキバルブ、圧力計、 厨房器機、調理器具・ホッパー・カッター刃・搬送用ガイド、カメラ部品・包装機械、テープ送り部材、化学プラント
リチウムイオン電池パッキン
電気、化学工業分野 (高温で腐食性の高い薬品を使用する環境で、工業用チューブ、ホース、パッキン、絶縁材、断熱材、ベアリング、ワッシャー、パッキン、ガスケット、バルブシート、軸受、電気部品、ネジシール用生テープ、チューブ、電線被覆、摺動部品、絶縁材など。)
半導体製造装置ライン (各種薬液の搬送、貯蔵などのプラントに多用。)
潤滑用油脂との混合

フッ素樹脂■PFA
=テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体

 パーフルオロ樹脂として優れた特性を持っています。耐熱性、耐薬品性、電気的特性はPTFEと同等です。 熱安定性が高く、連続使用耐熱温度は約260℃とPTFEに同じです(-200〜+260度)。高温使用の耐食(耐蝕)用としては高い性能を持つフッ素樹脂です。 滑り性・離型性・耐熱性・絶縁性・耐食(耐蝕)性が高く、様々な用途に対してオールマイティに使用できます。 これらの特性を活かしたPFAチューブは、半導体分野を筆頭に、あらゆる分野での配管材料として利用されています。近年特に半導体製造装置分野で用途が拡大してきており、イオン溶出レベルが低いPFAが増えてきています。化学薬品と恒常的に触れても変成せず、絶縁性も高いPFAは半導体分野の成形材料に適しています。溶融タイプの樹脂の中では高価です。
 光学的には、無色透明性であり、また化学的に極めて不活性なフッ素樹脂であるため、有機物や金属イオンの溶出がありません。特に高温での機械強度に優れ、加工性もよく、一般の熱可塑性樹脂と同様に射出成形による加工が可能です。PTFEと比較した場合、この熱可塑性(熱を加えると軟化する性質)が最大の特徴で、切削でしか加工できないPTFEと違い、PTFEでは難しい溶融成形(高熱を加え、成形する技術)が可能なため、自由に加工できます。
 耐薬品(耐食(耐蝕))性: PTFEよりやや劣るものの、強酸、強アルカリや酸化剤に対しても強い抵抗性を示し、ほとんどの薬品に対して侵されることのない、化学的に安定性の高い材料です。このため、活性の強い化学薬品に定常的に接触する半導体分野の部品の成形材料に最適です。特殊なハロゲン化有機溶剤、溶融金属ナトリウムや高温高濃度のフッ素ガスには侵されます。
 耐熱性:酸素指数が95%以上あり、不燃材として使われます。
 非粘着性: PFAは離型目的や耐食(耐蝕)目的に使用されることの多いフッ素樹脂です。高い温度で高度な非粘着性を要求される場合はPFAがよく用いられます。低摩擦性、非粘着性、撥水・撥油性など表面特性が高く、流動体の抵抗を小さくするなど優れた効果を発揮します。  
 耐候性:直射日光、風雨、排気ガスなどによる機能低下や劣化がなく、長期間野外に曝露しても特性は変化しません。  
 電気特性:極めて低い誘導率および誘電正接を示し、電気絶縁材として活用されます。
 加工(成形加工)性:PFAは物理特性、化学特性、電気的特性などいずれにおいてもその特性はPTFEと類似しています。しかしPTFEと異なるのは、PFAは溶融タイプのフッ素樹脂であるため加工性が高いことです。PTFEでは得られなかったピンホールのない被膜を得ることが可能で、このため高温使用の耐食(耐蝕)用としては最も高い性能をもつフッ素樹脂です。

用途
フレキホース、ベンド管、エルボ、異径チューブ溶接品、チーズ、T型チューブ溶接品、レデューサー、クロス、X型チューブ溶接品、マニホールド、シャワー、曲げチューブ、コイルホース、コイルチューブ、保護管、吹込管、試験管、攪拌棒、検尺棒、液面計、攪拌羽根、被覆スプリング、フック、フロート、 半導体工業分野(ウエハーバスケット、継手、チューブなど)、ライニング、電線被覆、フィルム
金型・コピーロール・各種ロール 耐高圧用パッキンやガスケット。
化学薬品の液面計・バブリングチューブ用パイプやボール。
ビーカーやピンセットなどの理化学実験器具等。
特殊な医薬品や電子・精密機械部品などの包装フィルム。
刃物・業務用炊飯釜 調理器具、食品用金型、精密機器部品、化学工業用タンク等
モールディングパウダーやファインパウダー、ディスパージョン、エナメル

フッ素樹脂■PVDF
=ポリビニリデンジフルオライド(2フッ化) (PolyVinylidene DiFluoride; PVDF)

「ポリフッ化ビニリデン」という呼び方が一般的。加工しやすいフッ素樹脂です。PTFE、PFAなどのパーフロロ樹脂に比べた時、耐薬品性、耐熱性、すべり特性、非粘着性などでは少し劣りますが、機械的特性、耐摩耗性、ガス透過性、耐放射線性に優れています。
[長所]:
機械的特性:フッ素樹脂の中で最高の機械的強度や衝撃強度を持ちます。
加工(成形加工)性:成形加工性が高い。射出成形が可能で、特に溶接がしやすい。

[短所]: 
耐薬品性:発煙硫酸、100℃以上の苛性ソーダ、アセトン、酢酸エチル、DMF、DMA、ケトン、エステル、環状エーテル、アミド類、その他極性溶剤に対して軟化や溶解します。
耐熱性:連続使用温度が130度と低い。
コスト:高価

用途
配管部品、ライニング用シート、角槽用素材、機械加工用素材 半導体・液晶製造装置のバルブやキャップ、産業機械のガイドレールやローラー、化学工業のボルトやライニングなど。 また、食品加工機械部品や医療機器、 バルブ本体・パイプ・ポンプなどの成形品やライニング。コンピュータ用フックアップワイヤー、航空機、ミサイルの接続電線、工業用制御電線など。マイクロフォン、スピーカーの圧電素子、塗料。

フッ素樹脂■FEP
=テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)

 特に耐薬品性、耐食(耐蝕)性、非粘着性、滑り性・離型性に優れています。連続使用温度は200°と、PTFE、PFAの連続使用温度260°に比べ若干耐熱性は劣りますが他の特性は同等レベルです。熱溶融成形が可能です。コスト的にはPFAとETFEの中間。

用途
金型、電線被覆、ライニング、チューブ、パイプ、ロール、業務用炊飯釜、フィルム、刃 物

フッ素樹脂■ETFE
=テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体

 ETFEとは、テトラフルオロエチレンとエチレン共重合体(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)によって得られるフッ素樹脂です。ETFEはPTFE、PFA、FEPに匹敵する耐薬品性、絶縁性、低摩擦性を引き継ぎながらも、部分フッ素樹脂であるECTFE、PVdFと比べたときには機械的特性が同等であり、優れた加工(成型加工)性を兼ね備えたバランスのとれたフッ素樹脂です。カットスルー抵抗が大きいなど機械的強度に優れ、また電気絶縁性、耐放射線性、加工(成型加工)性にも優れています。化学的には、エチルエーテルに侵されます。
 ETFEはPFA同様に熱可塑性を持ったフッ素樹脂であり、他のフッ素樹脂と比較した場合、加工がしやすく、PFAやFEPよりもコストが低く抑えられる点が特徴です。100℃以下であれば殆どの薬品に対し耐食(耐蝕)の効果があります。ピンホールがない厚い膜を作りやすいので重防食に向いています。
 またフッ素樹脂の中では比重が小さい方で、さらに透明度が高くガラス以上の採光率を持っていることから、温室のビニールハウスやドームスタジアムの屋根材としても使用されています。

用途
各種電線・ケーブルの被膜材、ビニールハウス用フィルム、離型用フィルム、グリーンハウス用フィルム、化学プラント、タンクその他工業製品のコーティング

フッ素樹脂■PCTFE
=ポリクロロトリフルオロエチレン(Poly Chloro Tri Furuoro Ethylene),三フッ化エチレン樹脂)(3フッ化)(3F)

ふっ素と塩素が3:1の比率で結びついたフッ素樹脂です。
 PCTFEの耐熱性や耐食(耐蝕)性はPTFE 、PFA、FEPより劣りますが、機械的特性としては硬度の高さ、圧縮強さに秀で、しかもこれらの強度が低温においても保持されます。光学的には透明度が高く、低い誘電率・誘電正接など、電気的にも優れた特性を持っています。また熱流動性は良く射出成形ができ、加工(成形加工)しやすい樹脂です。フッ素樹脂の特性を持たせつつ機械的強度をもたせる用途に適しています。
 PCTFEの特筆するべき性質は、水蒸気バリア性が非常に高く、水分(液体)を含む内容物の長期保存や運搬・移送用の包装フィルム成形に適しています。
 耐薬品性は、PFA、FEPより劣ります。強酸、強アルカリや酸化剤に対しては強い抵抗性を示しますが、溶融アルカリ金属、高温のふっ素、三フッ化塩素に侵されるほか、高温で塩素ガスやアンモニアガスにも若干侵されます。さらに、特殊なハロゲン化有機溶剤には高温で膨潤ないし溶解します。−50〜180℃までの耐熱性を持ち、低温特性にも優れ、極低温での寸法安定性、耐衝撃性に優れたフッ素樹脂です。

用途
切削加工品、低温バルブ、バルブシート、輸送バック、薬方フィルム、半導体製造装置、高圧用ガスケット、高圧用パッキン、配管、レベルゲージ、シール材。化学薬品、生物試料、医薬品などの輸送バック、医療用器具・精密機械器具の包装フィルム 、化学薬品の液面計・バブリングチューブ用パイプやボール。 ビーカーなどの理化学実験器具等。

フッ素樹脂■ECTFE
=クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体

部分フッ素樹脂としてPVDFに次ぐ高い機械強度を持ち、溶接加工が可能で加工性に優れます。PVDFとは違い、耐化学薬品性に優れるので、洗浄装置、エッチング装置の構造部材に最適な素材です。連続使用温度は160℃、フッ素樹脂の中では比重の小さなフッ素樹脂です。現在日本ではあまりつかわれていません。



一般的なフッ素樹脂特性分類

物理的特性
機械的特性
光学特性
電気特性
耐化学薬品性
耐熱特性
高温特性
低温特性
自己潤滑性
吸水特性
耐放射線性
耐候性
成形加工性